甲状腺とは、のどぼとけの下にある蝶ような形をした小さな器官で、ヨウ素を材料に甲状腺ホルモンを分泌しています。
甲状腺ホルモンは、体の新陳代謝を促進し、拍数や体温、自律神経などの働きを調節し、エネルギーの消費を一定に保っています。この甲状腺ホルモンのバランスが崩れると、体に様々な症状が現れます。
甲状腺の病気は比較的無症状で経過するため見過ごしたり、更年期障害や心臓病、神経・精神疾患と症状が似ているため他の病気と間違えられることがあります。

甲状腺の働き

細胞の新陳代謝を盛んにする

脂肪や糖分を燃やしてエネルギーに変え、細胞の新陳代謝を盛んにします

交感神経を刺激する

交感神経が刺激されると、心臓の動きや発汗を調整します

成長や発達を促進する

甲状腺ホルモンは、子どもが成長、発達するために不可欠なホルモンです

甲状腺の異常による症状

甲状腺ホルモンを作る働きに異常が出て、甲状腺ホルモンの量が多すぎたり、少なすぎると体に様々な不調が表れます。

甲状腺ホルモンが多すぎると

動悸や息切れ
疲れやすい
イライラ

などの不調が現れます。

甲状腺ホルモンが少なすぎると

気力がなくなる
寒がりになる
手足がむくむ

などの不調が現れます。

次のような症状があれば甲状腺疾患の可能性があります

  • 動悸、息切れ
  • 不眠症
  • むくみ
  • 手指のふるえ
  • 首のあたりが腫れる
  • 月経不調・異常
  • 疲れやすい、倦怠感
  • 食べても痩せる
  • 軟便・便秘
  • イライラ・集中力低下
  • 食欲がないのに太る
  • 眠気や記憶力低下
  • 体が重く、だるい
  • 暑がり、汗かき
  • 眼が出てきた

男性よりも圧倒的に女性に多い病気

甲状腺の病気は、男性よりも女性に多くあらわれるという特徴があります。
例えば20~30代の若い女性に多い病気であるバセドウ病の患者さんは人口1,000人あたり0.2~3.2人と報告されていて、男女比は1:3~5くらいと言われています。(※)
(※)一般社団法人日本内分泌学会ウェブサイト https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=40

甲状腺の検査

甲状腺の検査はおもに血液検査と超音波(甲状腺エコー)検査があります。

血液検査

血液検査では甲状腺ホルモンであるT3とT4、甲状腺刺激ホルモンであるTSHの量を測定することで、甲状腺ホルモンが増加する病気なのか不足する病気なのかを知ることができます。

超音波(エコー)検査

超音波をあて、甲状腺が腫れていないか、腫瘍(しこり)ができていないかを検査します。

上記の検査で異常があった場合は、必要に応じて以下の検査を行います。

穿刺細胞診
腫瘍が見つかった時に通、細い注射針で細胞を採取し、病理検査を行って良性か悪性かを診断します
甲状腺シンチグラム
血液検査で甲状腺ホルモンが過剰だった場合に行う検査です。バセドウ病か無痛性甲状腺炎かを見分けるために行います
CT
甲状腺が大きく腫れていたり、腫瘍の状態を確認するために行います

甲状腺の主な疾患

バセドウ病

バセドウ病は、甲状腺ホルモンが過剰に作られることで代謝が異常に高くなり、全身が休むことなく活発に働き続けてしまう病気です。20代〜30代の女性に多くみられます。

バセドウ病の症状は?

  • 暑がり
  • 落ち着かない
  • 脱力感
  • 疲れやすい
  • 動悸
  • 手足の震え
  • だるい
  • 食欲増進
  • 月経不順、無月経
  • 体重減少
  • 軟便
  • 甲状腺の腫れ
  • 眼球の突出
  • 多汗
  • 息切れ など
  • イライラ
原因は?
免疫の仕組みに異常が起こり、甲状腺を刺激してホルモンを作らせる自己抗体(TSHレセプター抗体)ができることで、無秩序に甲状腺ホルモンが作られることが原因です。
検査は?
血液検査によってTSHレセプター抗体を測定します。陽性であればほぼバセドウ病であると診断がつきます。
治療法は?
甲状腺の治療には3つの治療法があります。それぞれに長所と短所がありますので、症状の特徴やライフスタイル、年齢などを考慮して治療法を選択していきます。
 
内服療法
甲状腺ホルモンを抑える薬を定期的に服用します。
【対象者】
あらゆる年齢の方、妊婦さん、甲状腺腫が小さい方、症状が軽い方 など
アイソトープ治療
放射線ヨウ素のカプセルを服用します。放射性ヨウ素は放射線(ベータ線と呼ばれます)により甲状腺の細胞を減少させ、甲状腺ホルモンの量を減らします。
【対象者】
20歳以上の方、心臓や肝臓の悪い方、術後に再発した方、薬で治りにくい方 など
手術
過剰にホルモンを分泌している甲状腺を手術で切除します。
【対象者】
若い方、甲状腺腫が大きい方、ガンの疑いがある方、薬で治りにくい方 など

橋本病(慢性甲状腺炎)

橋本病は、甲状腺に慢性の炎症が起きることで機能低下になる病気です。40歳以上の女性の12〜13人に1人いると言われています。

橋本病の症状は?

  • 寒がり
  • 首あたりの腫れ
  • 食欲低下
  • 疲れやすい
  • もの忘れ
  • 皮膚の乾燥
  • 動作が鈍い
  • 無気力
  • 便秘
  • 体重増加
  • 脈が遅い
  • 脱力感
  • 低体温
  • 息切れ
  • 月経不順・過多
  • むくみ
原因は?
体質の変化などが原因で甲状腺に対する自己抗体(TgAb、TPOAb)が甲状腺を破壊することが原因です。甲状腺に慢性の炎症が発症しているために、甲状腺が腫れたり、のどに違和感を覚えます。
検査は?
血液検査によって自己抗体(TgAb、TPOAb)を測定します。陽性であればほぼ橋本病であると診断がつきます。
また甲状腺機能低下になっていないかを調べるために甲状腺ホルモンを測定します。
治療法は?
炎症が進み、甲状腺機能低下がある場合には、甲状腺ホルモンを補うために甲状腺ホルモン製剤(レポチロキシンナトリウム:LT4)を服用します。

無痛性甲状腺炎

無痛性甲状腺炎は何らかの原因によって甲状腺の細胞が壊れ、甲状腺に貯められていた甲状腺ホルモンが血中に漏れでてくることで発症します。細胞が壊れても痛みがないため、無痛性甲状腺炎と呼ばれています。
バセドウ病と同じような症状になりますが、時間が経てば正常化するので、ほとんどの場合治療は不要です。
診断のために血液検査を行います。

亜急性甲状腺炎

亜急性甲状腺炎は甲状腺の炎症によって甲状腺ホルモンが血中に漏れ出てくることでは証します。炎症なので甲状腺の痛みや発熱を伴います。
治療のために炎症を抑える薬を服用します。

甲状腺腫瘍(良性)

甲状腺にしこりができた状態です。しこりには良性のものと悪性のものがあり、これらが合併していることもあります。
超音波(甲状腺エコー)検査や穿刺細胞診などで診断します。悪性の場合は外科治療が必要ですが、甲状腺にできる悪性腫瘍の割合は約10%と決して高くなく、おとなしい性質のものがほとんどです。

甲状腺腫瘍(悪性)

甲状腺にできるがんのほとんどが甲状腺乳頭がんと言われるものです。
甲状腺乳頭がんは、乳頭という名前ですが、胸にある乳腺とは全く関係がありません。顕微鏡で観察するとがん細胞が集まって「乳頭」のような形をつくっているので、この名前がつけられています。
女性に多く見られ、10代から80代まで幅広く発症します。比較的生存率が高く、手術をすれば90%以上が再発することはありません。
痛みなどの症状はほとんどなく、あったとしても甲状腺のしこりやリンパ節の腫れ程度です。しこりも大きくなるまでわからないことが多く、自覚症状をきっかけに発見される例は少ないため、診断が遅れてしまいがちな病気です。